【現役タクドラ目線】お客さんが寝てしまうほど乗り心地の良い運転の仕方

タクドラの小ネタ

こんにちは、塩っペです!

タクシーに乗ると、数分で寝てしまうお客さんがいます。

乗ってきてスマホをいじってるけど、ある瞬間から音がしなくなって、ルームミラーで確認してみたらコクリコクリ…。

運転手としては嬉しい瞬間です。

もちろん単純に疲れていただけの場合もあります。でも、人って安心して身を任せられると感じると眠くなるものです。少なくとも「この運転手、大丈夫かな…」と思っているときにはなかなか寝られるものじゃありません。

お客さんが寝たなって思った瞬間から、僕の中ではあるゲームが始まります。

いかに目的地まで起こさずに走れるか

急加速なし。急ブレーキなし。急ハンドルもなし。

道路の凹凸やマンホール、停止ショックに至るまでを最小限に抑える、まるで赤ちゃんを乗せたゆりかごのような運転です。

目的地に到着して声をかけたときの「え、ここどこ…?もう着いたの…?」という表情を見るのが何よりの醍醐味。心の中でガッツポーズしています。

今回は、「お客さんが寝てしまうほどの乗り心地の良い運転」について書いてみようと思います。

僕がゆりかご運転を始めたきっかけ

僕が乗り心地にこだわるようになったのは2つの出来事がきっかけでした。

ひとつは新卒で入った会社の営業回り。助手席で延々と武勇伝を語る上司がやっと寝たので、このまま起こさずに帰社しようと目論んだこと。

もうひとつはメニエールで眩暈と吐き気が止まらない母親を夜間外来までの乗せていったこと。当時から運転には自信があったものの、たった一度の油断で大きく揺らしてしまい、その結果後部座席の母を苦しめてしまいました。

これがきっかけです。

ちなみにそのことについては、以前書いたこちらの記事でも詳しく触れています。

『急患センターまでお願いします』深夜の住宅街で始まった15分間の緊張
深夜の住宅街。アプリ配車が来たと思ったら行先は…。ゲロ袋を抱えたおばちゃんを乗せて、揺れ厳禁の道のり!

ゆりかご運転のテクニック集

発進➔走行中➔停車時という順番で書いていきます。

① 発進 ~最初の一歩で乗り心地は決まる~

信号が青になった瞬間、ギュイーン!とエンジンを唸らせながら飛び出していくタクシーを見かけることがあります。

運転している側は意外と何も感じませんが、乗っている側はそうではありません。

急加速すると車体のお尻が沈み込み、お客さんの身体はシートへ押し付けられます。短時間とはいえ意外と負担が大きく、リラックスどころか身構えてしまいます。

当然、そんな状態では寝ることなんてできません。

まずクリープ現象で車を転がし、その後ゆっくりアクセルを踏み込みましょう。

アクセルはONかOFFかのスイッチではなく、速度を調整するための道具です。

最初は浅く、速度が乗るにつれて少しずつ踏み込みを増やしていく。そんなイメージで操作すると、発進時のショックをかなり減らせます。

また、ハイブリッド車ではモーターからエンジンへ切り替わる際に独特の振動が発生することがあります。

アクセルを強く踏んでいるほど、この振動も大きくなりがちです。車種にもよりますが、エンジンが始動するまではアクセルを控えめにすると、より滑らかな発進になります。

急加速のショックって意外と大きくって、お客さんが寝ているときにしてしまうと高確率で頭がカクっとなり起こしてしまいます。

また酔客(特に泥酔状態に近い人)などは、その度に腹部に力がグッと入るため嘔吐リスクが高まります。

緩やかな発進は乗り心地を良くするだけではありません。お客さんの眠りを妨げず、車酔いや嘔吐のリスクを減らすことにもつながるのです。

② 右左折 ~遠心力を最小限に~

僕は右左折そのものよりも、その手前の減速を重視しています。

交差点に入ってから慌ててブレーキを踏むと、前後の揺れと左右の揺れが同時に発生します。お客さんにとっては最悪です。減速の慣性で前に、それと同時にカーブの遠心力で外側に身体が引っ張られるんです。車酔いしやすい人であればこの時点でアウトです。

曲がる前に十分速度を落としておけば、あとはハンドルでそっと向きを変えるだけ。乗り心地の良い右左折は、交差点に入る前から始まっています。

僕が最初に免許を取った教習員のMさんがこう言っていたのを思い出しました。

「カーブにブレーキは持ち込み禁止!」

ハンドルを切り始める前に減速を済ませてしまう。これこそが乗り心地の良い運転ということでした。

少し難しい話になりますが、乗り物はたらく遠心力は

「車両の質量(車重+乗員)×速度(秒速)の2乗÷カーブの半径」

で求められます。数式なんて考えたくもないよ!という方はこれだけ覚えてください。速度が2倍になると、遠心力は4倍になります。

一般的な交差点(半径が30m)を車重1,500kgの車が曲がるとして、速度によってどれくらいの差が出るでしょうか。ChatGPTに計算してもらったところこのようになりました。

10㎞/hの場合:約390N
15km/hの場合:約870N
20km/hの場合:約1,550N

たった5km/hの違いでも、かかる力を数字にすると一目瞭然。

ちなみに390Nは40kgに押される力、1,550Nは160kgの人に押される力です。第69代横綱の白鵬の現役の時が155kgですからね。速さの微差が、乗り心地の大差になるのです。

次にハンドルの切り方。同じ速度で走っていても、ハンドルを急に切れば車は急激に向きを変えようとします。お客さんの身体はその変化についていけず、横へ振られるような感覚になります。

お客さんが感じるのはハンドルの角度ではなく、身体が横へ引っ張られる力です。

同じ交差点を同じ速度で曲がったとしても、ハンドルをゆっくり切る人と急に切る人では乗り心地に大きな差が生まれます。「ちょっと速い + ちょっとキツイ曲がり」は一気に不快領域になります。

僕が意識しているのは、ハンドルを「回す」というより「入れていく」感覚です。

曲がり始めにじわ~っと舵を当て、コーナーの途中で必要な角度まで持っていきます。そして曲がり終わったら、今度はじわっと戻していく。

忘れがちですが、戻し方は大事です。

曲がり終わった瞬間にハンドルをパッと戻してしまうと、車体は反対方向へ揺り返します。せっかく滑らかに曲がれても、最後の最後でお客さんの頭が振られてしまうのです。お客さんが寝ているときは特に顕著で、ハンドルの戻し方が雑だと頭が左右にフラフラと揺れて起きてしまいます。

右左折は「曲がる瞬間」ではなく、「入り方」と「抜け方」で乗り心地が決まります。右左折の手前で十分に減速を終わらせ、交差点の中ではハンドル操作だけに集中できる状態を作るようにしています。

③ 先読みと観察 ~車間距離はクッション~

乗り心地を悪くする原因は、急加速・急ハンドル・急ブレーキです。

そして、その「急」が付く操作のほとんどは予測不足から生まれます。

前車が止まることを予測できていれば急ブレーキは不要ですし、割り込みを予測できていれば慌ててハンドルを切る必要もありません。

だから僕は運転中、できる限り多くの情報を集めるようにしています。

自車の周りの状況をできるだけ多くキャッチしています。言い換えると、観察と予測を繰り返しています。その予測が多ければ多いほど、「急」が付く動作は少なくできるでしょう。僕がいつも意識して見ている項目をいくつか挙げておきます。

先の信号
速度の調整が必要か、停止するか。歩行者信号や交差道路の信号も見ます。

前車の挙動
ウインカーを出す前でも、前車の速度変化やライン取りで次にとる行動が予測できます。

前車のさらに前車
2、3台先の車の挙動を観察していれば、前車の行動も予測できます。3台前の車が左折ウインカーを出したけど、横断歩行者がいるから停止の準備をする。2台前で右車線からの割り込みがありそうだから予め速度を落としておく。そんな具合です。

後続車の挙動
車が多い道路で忙しなく車線変更を繰り返す車がいれば、自車の前に割り込まれるかもしれません。車間を広く取るのか、いっそ少し詰めてしまうのかを判断します。

将棋のプロが何手も先を読むように、運転もまた先を読む仕事なのかもしれません。

いろんな車が入り乱れる道路という「場」の先が読めるから、「急」が付く動作と揺れを回避して、乗り心地を向上させることができます。

そしてもう一つ、予測とセットで覚えておきたいのが車間距離です。

せっかくいい予測ができたとしても、前車との距離が近ければ結果として急ブレーキを踏むことになります。これではもったいない。車間距離はブレーキと併用するクッションです。分厚いクッションであれば衝撃をふんわりと吸収してくれますが、薄い座布団であれば無意味です。

特に前車がトラックなどの大きい車で、その先が見えない時などはいつもよりも広めに取るようにしています。

そしてここでの予測が④で書いていく「停止」にも関係してきます。

実は乗り心地を左右する最大のポイントは、発進でも右左折でもありません。

僕は「停止」だと思っています。

そして滑らかな停止は、ブレーキを踏む瞬間ではなく、その何十メートルも手前から始まっています。

④ 停止 ~感じさせないふんわり停止~

乗り心地は発進や右左折でも決まりますが、最後の印象を決めるのは停止です。止まる瞬間にお客さんの身体がカクッと前に揺れるか、それとも気づいたら止まっていたのか。

この差は意外と大きいものです。

僕は停止への動作を大きく二つの段階に分けて考えています。①減速段階と②停止段階です。

まずは①減速段階。ここで前述の先読みと車間距離が活きてきます。

停止の必要があると分かったらまずアクセルをゆっくりと放します。車間距離を取っておくことで、道路の摩擦とエンジンブレーキだけでの減速でも十分に間に合うんです。そしてある程度まで速度が落とせたらブレーキを踏みます。

僕の場合は、停止線の30m手前付近では30km/h前後まで落としていることが多いです。

ここからは②の停止段階

ブレーキを少しだけ当てるような、3/10くらいだけペダルを踏むイメージで緩やかに減速して停止線に近づきます。

停止線直前、10km/hを切ったら2/10に。そして停止の瞬間1/10まで緩めると、停止の瞬間が分からないくらいにフワッと止まれます。

ちなみに加速時同様、ハイブリッド車ではエンジンからモーターに切り替わるタイミングで特有のショックが発生することがあります。

僕が担当しているシエンタハイブリッドでは8km/hが切り替わりのラインのようです。急にブレーキが強くかかる瞬間があります。

そんな時は、8km/hになる直前くらいに少しだけブレーキを弱めてあげるとスッと抜けるようです。

まとめ!~今日からできる練習法~

・発進は緩やかに

・右左折は速度を落として滑らかに

・常に周囲を観察・予測して「急」を減らし

・止まる瞬間にブレーキを抜いてふんわり停止

基本はこの4点だと思っています。お客さんが姿勢を維持するために余計な力を使わせないことが一番大事です。

最後に、僕が勧める練習を3つだけ。

飲み物をこぼさないつもりで運転

助手席にフタのないコーヒーが置いてあると思って運転します。タクシー会社の研修にも会ったりする練習法です。急加速、急ハンドル、急ブレーキが1度でもあればこぼれるので、自然と運転が丁寧になります。

大きめのぬいぐるみを助手席に置いて倒さないように運転する、などでもいいかもしれません。

停止ショックを0にする

信号で止まるたび「最後にカクっという衝撃が来なかったか」をチェックします。乗り心地を左右するのは発進よりも停止で決まることが多いです。

3台先の車を見る

前車だけでなく、そのさらに前の車を見ると、早めに減速などの回避行動が取れます。急ブレーキはほとんどなくなります。

乗り心地の良い運転は、特別なテクニックではありません。お客さんの身体に余計な力を使わせないこと。そのために、早めに見て、早めに減速し、最後だけそっと止める。僕は今日もそれを意識しながらハンドルを握っています。

お客さんが目的地で「え、もう着いたの?」と言ってくれた日は、少しだけ嬉しくなります。

今日は以上です(`・ω・´)ゞ

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