こんにちは、塩っペです!
タクシーをやっていると、時々こんなお客さんがいます。
「すみません、ちょっと酔いやすいのでゆっくりお願いします」
あるいは乗車した瞬間に、「実は体調が悪くて病院まで…」というお客さん。中には手にビニール袋を持っている人もいます。
運転手としては一気に緊張が走る瞬間です。車内嘔吐となればその日の営業はほぼ終了。清掃に3時間はかかります。だけどそんな打算的な話はひとまず置いておきます。
もちろん車内を汚されたくないという気持ちもあります。でもそれ以上に、具合の悪い人がさらに苦しそうになるのを見るのは辛いものです。
だから僕は普段から「できるだけ酔いにくい運転」を意識しています。
乗り物酔いは単純に「運転が荒いから起きる」というものでもありません。実際、同じ車に乗っていても平気な人もいれば、数分で顔色が悪くなる人もいます。前は大丈夫だったけど、今日は酔ってしまったと言うことも。
子どもの頃、親の車で酔ってしまった経験がある人も多いのではないでしょうか。
では、人はなぜ乗り物酔いをするのでしょうか。
そして、酔いにくい運転とはどんな運転なのでしょうか。
今回は現役タクシー運転手の視点から、乗り物酔いの仕組みと酔いにくい運転について書いてみようと思います。
そもそも人はなぜ乗り物酔いする?
乗り物酔いをしたことはありますか?
僕は2度あります。1度目は小学4年生のころ。団地の脇の公園にある昔ながらの箱型ブランコに揺られながらゲームをしていたら酔いました。
もう1回は大人になってから。五島列島に行くフェリーに揺られていた時、片道3時間ほどで本を読んでいたらだんだんと気持ち悪くなってきました。
それが僕の数少ない乗り物酔い経験です。
乗り物酔いの原因となるのはいくつかありますが、大きく分けると2つ。
1つは感覚のズレ。見ているものと平衡感覚の不一致です。車内でスマホなど一点を見つめていると、目は「静止している」と認識します。しかし耳の奥にある内耳と三半規管は車の揺れや加減速を感じ取っており、この感覚のズレが脳を混乱させるのです。
もう1つが自律神経の乱れ。車の揺れなどの物理的なものから、睡眠不足や疲労、空腹などで自律神経が不安定になり車酔いに繋がります。
そのほかに車内の空気、「また酔うかもしれない」という不安や緊張が自律神経の乱れを加速させるようです。
僕がブランコとフェリーで酔ったのは、揺れる状態でゲームや本を見ていたからということになりますね。
つまり、乗り物酔いを完全になくすことは難しくても、酔いやすい環境や揺れを減らすことはできます。そもそもブランコでポケモンなんてしなけりゃよかったわけですから。笑
では、どんな揺れが人を酔わせやすいのでしょうか。実は揺れの種類によっても酔いやすさが違います。
次は酔いやすい揺れについて見ていきましょう。
揺れの種類と対策
「揺れ」とひと口に言っても、いくつかの種類があります。カーブで発生する横揺れ、段差や停止時に発生する縦揺れ、加減速の重力で発生する前後揺れです。
横揺れは十分な減速とライン取りで
横揺れには2種類あります。
ひとつは、カーブや右左折で身体が外側に引っ張られるような揺れ。
もうひとつは、路面の傾きや段差によって車体事左右に傾く揺れです。
まずはカーブや右左折で起こる横揺れから。

以前この投稿でも書いたようにも書いたように「速度が2倍になれば、遠心力は4倍」になるんです。たった5km/hの差でもお客さんが感じる横方向の揺れは大きく変わります。
そのため、右左折や急カーブではハンドルを切る前に十分減速しておくことが大切です。
車酔いしにくい運転は、カーブの中ではなくカーブの手前から始まっています。
次は路面の傾きと段差による横揺れです。
道路を走っていると、アスファルトが波打っていたり、マンホールが凹んでいたり、逆に盛り上がっていたりします。
こうした場所をタイヤで踏むと、車体が左右に揺れたり傾いたりします。
毎日同じ道を走っていると自然と覚えますが、慣れていない道路ではなかなか難しいところです。
だから僕はいつも、できるだけ路面の状態を観察しながら走っています。自分の先を走っている車の揺れ方を見るのも有効です。前の車が揺れているのなら、自分の車も揺れます。
車線の中央寄りを選んだり、状況によっては別の車線に移ったりして大きな段差を避けることもあります。
こうした一つ一つの小さな積み重ねが、乗り心地の良さや車酔いの防止に繋がります。
縦揺れは丁寧な停止で
縦揺れが発生する主な原因は段差と停止ショックです。特に停止ショックは平たんな道でも起こりうるものなので細心の注意を払っています。
信号で止まるとき、車体が前に沈み込むような止まり方。1回や2回であれば大丈夫かもしれませんが、それが毎回だと車酔いに繋がります。
ポイントは、停止の直前でブレーキを弱めることです。
停止ショックが発生する原因は、減速を始めた時と同じ強さでブレーキを踏み続けていることです。
40km/hから減速するのにブレーキペダルを3/5ほど踏み込むとします。そのままの力で踏み続けると、速度が落ちるにつれてブレーキが効きすぎる状態になります。
そうなると慣性の法則によって、同乗者の身体(特に頭)が前に投げ出されることになります。
こうならないコツは、減速に応じて少しずつブレーキを弱めていくこと。
先ほどの例で言えば、40km/hから20km/hまでは3/5くらいの踏み加減、そこから2/5に緩め、停止の直前で1/5くらいまでに緩めます。
そうすることによって「車が進む力よりもブレーキの力が少しだけ強い」という状態になり、停止直前のカクっという衝撃がほどんどなくなります。
ただし、ブレーキを緩めれば緩めるほどいいというわけでもありません。
AT車の場合はクリープ現象があるので、緩めすぎるとブレーキの力が弱くなりすぎて進んでしまうことがありますので注意が必要です。
また、一部ハイブリッド車ではエンジンが切れる瞬間に独特の揺れ方があるので、乗る車両の特徴によってフワッと停止のコツを掴んでみてください。
お客さんが寝ているとき、この停止ショックがあるかないかで起こしてしまう確率が大きく変わります。気づいたら信号で止まっていた。そんな停止ができると、乗り心地が良くなるだけでなく、車酔いの予防にもつながります。
前後揺れは滑らかな加減速で
最後に取り上げるのは、急な加減速によって生じる前後揺れです。
急な加速時には身体がシートに押し付けられるようになります。
急な減速時には身体が前方に押されるようになります。
この2つへの対策は、滑らかな加減速を行うことです。
まずは加速。アクセルをギュッと踏み込むのではなく、少しずつ強めていくような踏み方で。特に発進の時にはブレーキを放してクリープ現象だけで少しだけ転がし、そこからアクセルをじわっと踏み込みます。
これだけで発進の時の前揺れはほとんどなくなります。
そして減速。こちらもブレーキを早めに、優しく踏むことで抑えることができます。急ブレーキを避けるためには、別の記事で書いた「先読みと観察」が活きてきます。
信号が赤になることや前車の減速を早めに予測できれば、慌ててブレーキを踏む必要はありません。車間距離はブレーキのための余裕であり、乗り心地のためのクッションでもあるのです。
急加速や急減速は、お客さんの身体に「構え」を強いる動きです。逆に滑らかな加減速ができれば、お客さんは余計な力を使わずに済みます。
乗り物酔いしにくい運転とは、結局のところ「身体に余計な仕事をさせない運転」なのかもしれません。
車酔いは揺れだけが原因じゃない
車酔いの原因は揺れ以外にもあります。お客さんが車酔いしないように気を付けていることがいくつかあるので、それも紹介しておきます。
車内のニオイと温度
前のお客さんの香水の残り香、食べ物の匂い、汗や体臭。タクシー特有のもので言えばLPガス臭など。強いニオイは車酔いの原因となります。
また、もわっとこもったような空気も同様です。雨の日などは湿度が上がるため、車内の空気がこもりやすい時期なので注意が必要です。
ニオイや空気がこもらないよう、こまめに換気をする。強い芳香剤や香水を使わない、適度にエアコンを使うなどして車酔いを防ぎます。
ウインカーのタイミング
これがどれだけの効果があるかはわかりませんが、右左折と車線変更時のウインカーは早めに出すようにしています。もちろん周囲の車に進路変更を知らせるためですが、それだけではありません。
お客さんにも「この先で曲がりますよ」という予告をしているつもりです。
車酔いは目や耳(三半規管)のバランス感覚のズレで起こります。人は予想していた揺れには比較的強いものです。
逆に何の前触れもなく急に車体が傾くと、身体も脳も対応が遅れてしまいます。だから僕は、曲がる前にできるだけ早く合図を出すようにしています。
減速開始は減速音を聞かせる
ハイブリッド車では、ブレーキを軽く踏み始めると回生ブレーキ特有の音が聞こえることがあります。
「ヒューン……」というあの音です。
僕はこの音も意外と大事だと思っています。
お客さんは無意識のうちにその音を聞いて、「あ、減速するな」と認識できます。
すると身体も減速への準備ができるため、急にブレーキがかかった時よりも違和感が少なくなるように感じます。
まとめ
車酔いというと「体質だから仕方ない」と思われがちですが、運転によって軽減できる部分も少なくありません。
・カーブや右左折では十分に減速する
・段差や路面の状態を観察する
・停止直前でブレーキを緩める
・急加速、急減速を避ける
・車内の空気やニオイにも気を配る
こうして並べてみると、どれも特別なテクニックではありません。
共通しているのは、お客さんに予想外の揺れや刺激を与えないことです。
車酔いしにくい運転とは、単にゆっくり走ることではありません。
次に起こる動きをお客さんが自然に受け入れられるようにすること。そして身体に余計な力を使わせないことです。
僕自身、体調の悪いお客さんや酔いやすいお客さんを乗せるたびに、「できるだけ楽に目的地まで送り届けたい」と思いながらハンドルを握っています。
もしこの記事が、ご家族や友人を乗せる時の参考になれば嬉しいです。
今日は以上です(`・ω・´)ゞ

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