父の名は

乗務日誌

「美女と野獣見る~!」

後部座席で女の子がおねだりする。

鳥飼八幡宮がある中央区今川から南区高宮までのアプリ配車。まだおしゃべりができずふにゃふにゃ言うだけの2歳くらいの子と、言葉もしっかりしている6歳くらいの女の子、そしてそのお母さんがご乗車。

シートベルトを自発的に着けてくれる家族連れ。きっと自家用車でも車に乗るときの作法はきっちりとしているのだろう。

ただし担当車のシエンタ、後部座席のシートベルトは若干のクセがあるのでお母さんに断って僕が着用の操作をした。

時間にして20分ほど。動物園入口から平尾方面に抜けてほしいとのリクエストだったので、昼間の城南線を走って向かっていた。後部座席ではアニメ版『美女と野獣』の音声が流れる。

アンパンマンやちいかわなどのアニメを見る子が多い気がする昨今で美女と野獣とはなかなか硬派なお嬢さんだこと、なんて思っていた。

「まま~、ベルってどんな女の子なの~?」と娘ちゃん。

「ベルはとっても賢い女の子なんだよ~」とお母さん。

「じゃあさじゃあさ〜…」と、子ども特有の空想話に展開する。お母さんもそれを丁寧に聞いてはきちんと答えている。そしてその回答の当意即妙さについ僕も聞き入ってしまった。

「じゃあ私ベルね〜!」と娘ちゃん。何の前触れもなくごっこ遊びが始まったようだ。

「弟くんは〜…チップ」

なるほど、ポット夫人の隣にいるちっちゃいやつか。

「あ、やっぱり羊」

…美女と野獣のキャラクターにいましたっけ、羊。仮にいたとしてもそんなにメインじゃないはず。あまりディスニーに詳しくない塩っペでも知っている元気なティーカップかと思ったら、ディスニーに詳しくても知らないかもしれない羊への突然の変更。

弟くんに下った降格人事を気にすることなく「じゃあママは〜?」と続きを問うお母さん。

「お母さんも羊〜」

だからいましたっけ、そんなキャラクター。弟くんがチップになりかけたからきっと、ポット夫人を経由するものと思っていたらどストレートに就任しました。

よっぽど羊が好きなのか、お母さんと弟くんは目立つキャラにしたくないのか。世界の平和と安寧のためにも、ぜひ前者であってほしいところ。

「じゃあ〜、パパは〜?」

美女と野獣の登場人物の中で男性キャラクターはそこまで多くはなかったと思います。

悪い魔女によって野獣に変えられた王子
時計の形をした元執事のコグスワース
ひょうきんな踊るロウソクのルミエール
親不孝のクラブにいても違和感がない、ベルにフラレた悪役ガストン

これぐらいだったと…

「パパはガストン!」

え、パパ悪役やん。めっちゃ嫌なヤツやん。

想い人が振り向いてくれんからって、その父ちゃん拉致って脅迫するクソオブクソやん。弟くんとお母さんの配役には若干の迷いがあったように思えるけど、お父さんは待ってましたと言わんばかりの勢い。

ドラえもんには大山のぶ代

ちびまる子ちゃんにはタラコ

コナン君には高山みなみ

そのくらい当然に、まったく預かり知らぬところで望みもしない悪役の座を押し付けられたパパ。

しかも娘ちゃん、映画見始めるくらいのときに「ガストンは言葉が汚いから真似しちゃめなんだよ!」ってお母さんに説いていました。

ここんちの父ちゃんどんなキャラしとるんや…。

ちょうど件のガストンが登場したあたりでお家に到着しました。支払い処理を済ませ、シートベルトを外し、元気よく「ありがとうございました!」と一家揃ってお礼を言ってくれました。

あのあとパパにガストン役大抜擢の知らせは届いたのでしょうか。

それを告げて親子の仲はどうなったのでしょうか。

『美女と野獣』のベルのように、野獣に囚われたパパを迎えに行く健気でお父さん思いな女性になってくれたらなと思いました。

決して悪役ガストンに色目を使う阿婆擦れなどにはならぬよう…。

今日は以上です!

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