今日は土曜日。時刻は23時。
このところ暇な日が多かったが久しぶりにこの時間で4.5万を超え、ホクホクしている塩っぺ。
早良区南部の某所から「ごめん!めっちゃ近いんやけど 」と目的地は近くのウエスト付近。信号の具合によっては割増時間帯でも670円の距離。
その手前で手を挙げている2人を見つけました。一旦ウエストで降車を済ませ、後続の空車が来てないかを確認します。
この時間の郊外、そうそう空車なんて来やしません。今日は何かと流れが掴めてます。いいペースいいペース。
戻るとまだ待っててくれました。ドアを開けます。お店の人だったようで「ちょっと待っててくださいね、呼んできますので」と店内へ。
〜5分後〜
ねぇ、まだ?
お店の玄関から声掛けてるくらいだからそこまで広いお店じゃないはずなんですが、出てくるまでが異様に長い。
そしてお店の人が二人ともそこにいるなら、お会計は済んでそうな感じがする。
もう少し待って乗らんやったら断り入れて出ようかな、そう思った時にやっと出てきました。
出てきたんですが、おっちゃんの歩みがまあ遅いことこの上ない。昔飼ってたクサガメのヨシエちゃんの方がまだ俊敏。


このおっちゃんの歩みは、なぜ自然界で生きながらえているのか不思議なくらいトロいナマケモノのそれよりも遅い。
早よしてくれよぅ…もう待ちくたびれたよパトラッシュ…。
幅2mほどの歩道を歩いてくるだけなのに、24時間テレビのチャリティマラソンを見届ける気分です。
今塩っぺの脳内ではサライが流れています。
画面右下にはちっちゃいワイプが入って日本各地の会場が北から順番に流れています。
ヨタヨタのおっさんが今!
日本武道館の入口に到達しました!
〽︎さくら〜ふぶ〜きの〜
あぁ、徳光さんが泣いている!
塩っぺも待ちくたびれて泣いている!
おっさんがゴールした日本武道館が、塩っぺタクシーのスタート地点なのです!!
クタッとしたおっさん。ズリズリとタクシーに近付いてくるおっさん。目も据わっています。
あぁ〜…。
なんかアカンやつな気がするなぁ〜…。
塩っぺの本能が「アブナイ」と書かれた畳3帖分はあろうかという大きな旗を振って何か叫んでいる。
このまま発車してはいけないと本能が申し上げている。
そしてこの時、付き添いと思しき女性がレジ袋に入った何かを地面に置く瞬間を捉えた。
それと同時に店の奥から、ビニール袋ある〜?との声が聞こえた。
間違いない、このおっさんは黒。つまりゲロリスト予備軍である…!
やはり本能の叫びは正しかった。
第一印象での違和感には従っておくべきだ。
しかし現状では断るに足る材料がない。
何か、何か判断材料はないものか!
こういうときに大事なのは客観的事実。誰が見ても明らかな物的証拠。そう、着衣の確認だ!着衣にその痕跡があれば
ズボンにしっかり嘔吐の痕跡がありました。右脚の膝から下!これではっきりした!正当事由による乗車拒否ができるパターンだ!
酔客に関連する乗車拒否理由
タクシー事業者はい わゆる「運送約款」に従って乗務しており、これに該当する場合は乗車拒否をすることがあります。
第4条 当社は、次の各号のいずれかに該当する場合には、運送の引受け又は継続を拒
絶することがあります。
(9)旅客が行先を明瞭に告げられないほど又は人の助けなくしては歩行が困難なほど泥
酔しているとき。
(10)旅客が車内を汚染するおそれがある不潔な服装をしているとき。
(11)旅客が付添人を伴わない重病者であるとき。
国土交通省が定める運送約款より該当箇所を抜粋してきました。
事業者ごとに異なる箇所もありますが、この部分に関しては各社ほぼ同じようですね。
今回のケースでは…
(9)一応歩けている…のか?千鳥足気味。行先は言えなさそう。
(10)ズボンと靴に嘔吐跡がある。
(11)付き添いはあるっぽい。
ということで(10)のみの該当、(9)は微妙です。
ひとまずおっさんの奥さん(と思われる)に話に行きます。
「恐れ入りますが、ズボンに嘔吐の跡があります。運送約款の規定に則り今回はお引き受けをお断りさせていただきます。」
そうですか…やっぱりそうですよね、とおっさんを止める女性。やっぱりって言うくらいなら乗せようとせんでくれ。
女性はすんなり引き下がってくれて、おっさんの手を引きました。その瞬間その場に崩れ落ち、寝る前の赤子のようにもぞもぞし始めるおっさん。
失礼します、と車に戻ろうとするとその場にいた別の男性が一言。
「それってさぁ、着替えたらいかんと?」
どういう発想?
確かに着替えたら(10)には該当しなくなるけど、その着替えはどこから持ってくるのか。あんたのズボンを貸すということか。それとも店の兄ちゃんのズボンでも引っぺがすのか。それとも着替えとは言うもののズボンを脱がせるだけのパンイチ状態なのか。
どれにしたって現実的ではありません。こんな時間にズボンを売ってる店なんてあるわけもないし、パンイチのおっさんも乗せたくない。
よくそんなこと思いつくなぁ、アイデアマンなのか?三流企業の企画開発部とか商品開発部とか向いてるかもしれんぜよ。そういう突飛なアイデアが思いつくなら。
「しかし先ほどまで吐かれていたいようですし、ここまで歩けない状態では…」
言いかけたところで女性が「いえいえ、大丈夫ですから次のお客さん探しに行ってください」と言ってくれましたので、運転席に戻りました。
運送約款、知られてないなぁ…
前述の運送約款ですが、おそらくあまり知られていません…よね?タクシー運転手でも知らない人がいたって不思議じゃありません。
知っていないといけないものなのに。
ちなみに僕の会社では、車の鍵をかけておくボードの上に掲示してあります。第〇条×項まで覚える必要はないとは思いますが、何が書いてあるかは最低限把握しておく必要があるんではないでしょうか。
運行中のトラブルに対処するためのガイドラインのようなものですから。
そしてお客さん側にもこれは広まってほしい。乗ろうとして断られてムッとするのはわかるけど、こちらも「顔が怖いから」とか「なんか臭そうだから」といったいい加減な理由で断っているわけじゃありません。きちんとしたルールがあるんだということを知ってほしいです。
そうは言ってもやはりそれを説明して、納得してもらうのも運転手の仕事のうちなんだと思ってます。
なんて骨の折れる、楽しい仕事なんでしょう。
閑散期ど真ん中、特に月初めは目も当てられないほどです。仲良しの同僚、夜勤なんですが1万上げるのがやっとで珍しく2時には退勤していました。
思うように乗せられずイライラが募るのもわかりますが、それを運転に出せば事故の元。焦ってきたら一度落ち着く、空車が集まるエリアには近寄らない、防衛運転を徹底する。
会社は数字しか見ないでしょうが、無事故無違反での帰庫が当たり前のようで何よりも尊いと思っています。
どれだけ探し回ったっていないもんはいないんですから、引き際が大事です。上がらなければ定時で帰ります。
忘年会シーズンまではこんな調子でしょうから、読者の皆様におかれましてもどうぞこれからもご安全に!
長くなりましたが今回は以上です!
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